二子玉川の駅前でショッピングを楽しむのもいいけれど、少しだけ足を延ばして、日本の伝統美に浸ってみるのはいかがでしょうか。
にぎやかな駅周辺から少し離れ、高台にある瀬田エリアへ15分ほど歩いていくと、脈々と受け継がれてきた、色鮮やかな糸の伝統工芸である「手まり」に出会うことができます。
手まりとてまり文庫の歩み

手まりの起源は、飛鳥時代に中国から伝わった「蹴鞠(けまり)」にまで遡ります。
1000年以上の歴史を持つ、日本を代表する伝統工芸品のひとつなんですよ。
もともとは蹴って遊ぶものでしたが、のちに御殿女中たちの手芸として、色とりどりの絹糸で繊細な刺繍を施し、その技術を競い合う華やかな文化へと発展しました。
江戸時代に木綿糸が普及すると、手まりは庶民の間にも広まり、母から子へ贈る玩具として、また新年を祝う縁起物として各地で独自の進化を遂げました。
地域ごとの特色がある手まりとして有名なのは、
秋田県: 本荘ごてんまり(三方に房がついているのが特徴)
長野県: 松本てまり
香川県: 讃岐かがり手まり(草木染めの糸を使用)
石川県: 加賀てまり
熊本県: 肥後てまり(「あんたがたどこさ」の手まり唄でも有名)
こうした全国の伝統的な手まりを研究し、現代に蘇らせたのが、手まり研究の第一人者である故・尾崎千代子さんです。
1968年に著書『てまり12か月』を出版し、1979年には「日本てまりの会」を設立。
併設された「てまり文庫」には、彼女が情熱を注いで収集した貴重な文献や、各地の郷土まりが大切に展示・保管されています。
伝統技法の継承|無心で糸を紡ぐ贅沢な時間
「てまり文庫」では、初心者から上級者まで、体系立てられたカリキュラムで指導を受けることができます。
入門から研究科を経て教授まで続く長い道のりですが、一針ずつ基本を積み重ねていく過程そのものも魅力のひとつ。
というのも、手まり作りは単に糸を縫いつけるだけではなく、数学的な美しさを生み出すための緻密な工程があるのです。

手まりの作り方
1.芯作り: 土台となる球体を用意(てまり文庫では作りやすい発泡スチロール球を使用)
2.糸巻き: 芯に極細の毛糸を巻き、その上からミシン糸を隙間なく巻いて、滑らかな土台を作る
3.赤道:球体の中間の位置に印を打つ
4.地割り(じわり): 土台を均等に分けるために、金糸やしつけ糸などで表面に柄のガイド線となる「地割り糸」を巻き、等分(8等分や10等分など)の線を入れる
5.かがり: 地割りした線に沿って、針で色糸をすくいながら模様を描く
柄によって8等分、10等分、12等分などを組み合わせて、無限大に柄を描くことができるのです。

発泡スチロール球のてまり芯から模様かがりまで
また、てまり文庫では初心者は扱いやすい「5番糸」という太めの糸からスタートしますが、上達するにつれて細い糸を選び、より繊細な表現に挑戦することも。

色とりどりの手まり用の糸

手まり用の針
色とりどりの糸の中から自分好みの組み合わせを選び、一針一針集中する時間は、日常のあれこれを忘れて、自分の世界だけにどっぷり浸れる贅沢なひととき。
そして、この世にたったひとつしかない、自分だけの手まりができあがります。
伝統の先にある柔軟で個性的な美しさ

尾崎千代子さんの作品
手まりの模様といえば、伝統的な「菊」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、同じ菊模様でも「地割」の数や色の重ね方ひとつで、さまざまに表情を変えます。

美しい菊模様の手まり

一口に菊模様といっても、地割の数や糸の色でまったく違う美しさになり、さまざまな模様がある中で菊模様だけを極める方もいらっしゃるほど。
また、伝統の技法を守りつつ、現代の感性を取り込めるのも手まりの面白さです。

桜やバラ、花火といった季節の風景はもちろん、文字や動物、さらにはキャラクターまでもが、糸のかがりだけで表現されます。

この柔軟な多様性こそが、今もなお多くの人々を魅了し続ける理由なのでしょう。

こちらは機械で作られた手まり。
とても大きいサイズの手まりですが、繊細ながらもパキッとした色使いと糸で印象が違いますよね。
次世代へつなぐ想い|親子で体験できる「母と子のてまり教室」も
創設者・尾崎千代子さんから手まりの真髄を受け継いだのは、愛娘であり現会長を務める尾崎敬子さん。

敬子さんは、穏やかな笑顔で手まりの魅力や、お母様が情熱を注がれた日々のお話をたくさん語ってくださいました。
また「てまり文庫」では、夏休み期間に針が持てるお子さんを対象とした「母と子のてまり教室」も開催されています。
近年はお休みしていましたが、再開を心待ちにしているファンも多く、前向きに検討されているそうです。
最新情報はぜひ公式ホームページをチェックしてみてくださいね!
てまり文庫
住所:東京都世田谷区瀬田1-5-12
アクセス:東急田園都市線「二子玉川駅」から徒歩約15分
TEL:03-3707-0314
営業時間:10:00-17:00
定休日:火曜・日曜・毎月最終日(年末年始、夏季休館あり)
駐車場:なし











